――それは身長制限が130cmなのに120cmの人が乗ってくることを想定して作るということですか?
坂井:その場合は「お客さんダメですよ」って言えるけど、「ジェットコースターにメリーゴーランドや観覧車と間違って乗ってしまった人」や「山手線に乗るのに、間違ってジェットコースターに乗ってしまった」とか「罰ゲームでジェットコースターに乗らされてしまった人」とか、そもそもジェットコースターに興味のない人のことを想像しながら、内容を考えなければいけないということです。
でも、それを意識することによって自分の仕事に対して覚悟ができます。多少のクレームや厳しい意見が出るのは仕方がないと思いながらやりますね。
――常にコンプライアンスとは戦っている感じですか?
坂井:いやいやコンプライアンスとは戦っている意識ではなく、そこを「当然そういうものだ」と思いながらやらないといけないんですよ。そこでコンプライアンスと戦っていたら、本当の敵と戦えないというか。ジェットコースターを嫌いな人と戦っていたらダメなんですよ。
「なんでジェットコースター嫌いな人のことを考えなくちゃいけないんだ」と思ったら、そこで終わっちゃうんだけど、「最強の絶叫マシンを作る」というのが大前提としてある。
僕はメリーゴーランドも観覧車もお化け屋敷も好きだけど、やっぱりジェットコースターが最高だよね!と思いながらジェットコースターというプロレスに携わっている。
――ジェットコースターを嫌いな人とも「寄り添いながら」ということですよね。
坂井:そう考えてから仕事をする上で楽になったような気がします。
――僕は「ヤメロレッテ」を観る前と観た後、ハイパーミサヲ選手に対する気持ちが変わりました。試合後のマイクで、初めてミサヲ選手の気持ちを知ることができて更に好きになりました。そういうのを引き出す坂井さんの演出は、すごいですね
坂井:僕は、選手が本当にすごいなと思いますよ。
――坂井さんは、選手を愛しているんですね。愛がないとできないじゃないですか。
坂井:でも……逆のパターンもありますよ。
――えっ、逆のパターンもあるんですか?
坂井:その人について、ずっと考えるじゃないですか。考えている時間が長ければ長いほど、それは愛しているのと同じことなりませんか?
――そういう意味ですか、良かった(笑)。
坂井:選手たちのことを考えれば考えるほど、見てくれるお客さんのことを考えれば考えるほど、選手やお客さんたちに対して、自分の中で勝手に愛が深まっていく感じです。今やっている仕事をすることによって僕も助けられているというか、ある意味「生かされている」ような気がします。
自らレスラーとして出場し、自らアイデアを考え、自ら演出しているときには気づかなかったことですよね。自分以外のレスラーや興行について考えれば考えるほど、そのレスラーをずっと応援しているお客さんと同じ気持ちになるわけじゃないですか。すると、どんどんレスラーのことを好きになっちゃうんですよ。
<後編につづく>
<インフォメーション>
来年3月に開催が決定した「まっする4」。大会に先駆けて過去の「まっする」を動画配信サービスWRESTLE UNIVERSEでご覧頂けます。
また大会チケット等の詳細はDDTプロレスリング公式サイトをご確認ください。
取材・文/大楽聡詞
写真提供/DDTプロレスリング