【DDTプロレス マッスル坂井】複数の顔を持つ、プロレス業界の異端児(中編)

――先日、東京女子プロレス(以下、東女)のハイパーミサヲ選手の引退試合「ヤメロレッテ」(※試合後に引退を撤回)も、笑いあり感動ありで激しく感情揺さぶられました。同じように「まっする3」もミュージカルなのに、選手たちの真剣勝負を見ていて熱くなる自分がいました。坂井さんの作り出す世界はジェットコースターのように、次から次と喜怒哀楽の感情を見せてくれます。何に気をつけて演出するんですか?

坂井:「ヤメロレッテ」は、「ハイパーミサヲ選手の結婚」というゴールが決まっていました。その結婚というゴールに至るまでにその過程として「引退した方がいいんじゃないか」という悩みがあったり、「引退して結婚することを自分の口からお客さんに伝えたい」という気持ちがあったり、また新型コロナの時期に「今は引退すべきではない」という思いであったり…

 また「『まっする3』を観てプロレスを、もう少し続けたい」と言ってくれたり、そういうのもありつつ…やりたいことが続けられない時代でもあるし、逆にいうと今年はコロナがあり何かを諦めないといけないタイミングもたくさんある。前向きにゴールを描いていた人が、その通りのゴールを迎えられない辛さもある。

 辞めることも続けることも思うように行かない時代の中で、「結婚」をどういう風に考えなければいけないのか。女性だけでなく同じように考える男性もいるだろうし。僕は40代ですけど若い人は若い人なりにリアルな悩みとして色々と抱えているんだろう、と本当に思っていて。ミサヲさん自身、引退や結婚というテーマを含むこの試合をどうしていいのか難しかったと思います。

坂井:だから僕は「その過程を全て見せた方がいいんじゃない?」と言いました。「『引退したい』という気持ちも『続けたい』という気持ちも『結婚したい』という気持ちも全部出せばいいじゃない」と言ったんですけど、それを順序立てて説明するのが難しいと感じました。

 そこでミサヲさんに「最近、面白かったものある?」と聞いたら「バチェロレッテ(※女性版バチェラー)を観ています。東女のメンバーも観ています。」という話になりました。だったら「バチェロレッテ」を題材に使おうと。観ているお客さんが全員、元ネタの「バチェロレッテ」を分からないかも知れないけど、入り口になるだろうと思いました。

 観ている人の予備知識として「バチェロレッテ」が必要かどうかは、そんなに大切ではない。それは「まっする」のUWFインターの小ネタも同じです。知っていたら、より楽しめるけど、知らなくても楽しめるように作っているつもりです。元ネタは、あとで調べてもらえば良いと思うし、あくまでオマケだと思っています。

――坂井さんは、「一つのことに関してメチャクチャ考える」とおっしゃっていましたが、その選手の背景であったり、お客さんに楽しんで貰えるか等、細かく考えていますよね。

坂井:最近、特に思うのは「ジェットコースターの設計者の気持ち」といいますか、ゆっくり登って登って一気に落とす。見ている人の気持ちを揺さぶって揺さぶって、最後は安全にゴールにお連れする、というのがプロレス。選手は試合中、そのことを考えて戦っていると思うんですよ、お客さんにプロレスというジェットコースターを味わってもらうために。

 以前はジェットコースターが苦手な人を想定せず、ジェットコースターを設計していたと思うんです。でも世の中が変わってきて、ジェットコースターが苦手な人や嫌いな人がジェットコースターに乗ってしまったことを想定しながら、なおかつ絶叫マシンを作ってくれという発注に変わってきています。

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