――それが、なぜ改めてDDTのリングに上がることになったんですか?
坂井:マスクで顔は隠せても才能だけは隠せなかった…その一言ですね。
――確かに溢れちゃいましたね(笑)。この頃、パワーポイントでのプレゼン「煽りパワポ」が話題になりました。坂井さんは、とにかくアイデアマンですよね。
坂井:アイデアマンというよりは「フィジカル(身体的能力)無さすぎマン」なんですよ。パラメーターの中で「アイデア」「テクニック」「フィジカル」とか色々ある中で、「アイデア」が突出しているわけじゃなくて、「フィジカル」や「テクニック」が極端におざなりなのでそこが際立って見えるだけだと思います。
――「煽りパワポ」は、初めてプロレスを観戦した人でも分かりやすいと思います。「ここがポイント」と教えて貰える画期的なシステムですよね。中途半端なプレゼン内容だと冷めてしまいますが、「成長マトリックス」や「ポートフォリオ分析」等、ビジネス用語を使い理論的な説明なので引き込まれます。
坂井:序盤のレスリングで体力無くなるのが困るんですよ。だから試合時間を何とかして短縮しなければいけないと思いまして。
――パワポのプレゼンをプロレスに持ち込もうと思ったのは、どうしてですか?
坂井:あの頃(2014年)、本業は新潟にある坂井精機株式会社の専務取締役で、地方在住者のため、DDTも毎試合毎試合出場できるわけでもない。普段から練習できるわけでもない。でも「いつでどこでも挑戦権」を持っていたのでKO-D無差別級王座に挑戦できるわけです。これを使ってKO-D無差別級に挑戦した時、お客さんを納得させられるタイトルマッチを果たして成立させられるか……ということを永遠に考えるわけですよ。
努力したくても努力だけでは補えない部分があり、長年プロレスを観ている方には伝わってしまう。でもDDTの後楽園ホールでタイトルマッチに臨む以上、他のどの選手よりもインパクトは残さなければいけないと思いましたね。とにかくメチャクチャ考えます、「他の誰にも出来ないことをやらなければいけない」と。
――そうやって考え抜いた結果、生まれたのが「煽りパワポ」だったのですね。
坂井:その頃はプロレスの試合をすることよりも、パワーポイントで資料を作ることが多かったんですよ。当時、新潟大学大学院の技術経営研究科に通っていました。社会人が仕事をしながらMBAを取得にする大学院に通う感じですね。
生徒は毎回毎回、前回出された宿題をパワポでまとめて次の授業で発表していました。パワポを使って得意技を解説するかのように、自社の強みを同級生たちが発表します。米菓メーカーの方が「うちの柿の種の強みはここです」とか。
そういったマーケティングや経営学の授業を受けていても、実家の仕事に置き換えるのではなく、どうしてもプロレスのこと、強いてはDDTのことに置き換えて授業を受けてしまうんです。自社の経営戦略を考えることと、自分のレスラーとして勝つための戦略を考えることはプロセスとしては一緒なんじゃないか、とずっと考えていましたね。
――それが形になって「煽りパワポ」に繋がったんですね。
坂井:そうです。
<中編につづく>
<インフォメーション>
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取材・文/大楽聡詞
写真提供/DDTプロレスリング