■04年、復帰戦でライバルとの投げ合い
01年夏から約2年半に及ぶリハビリを経た04年、黒木はついにマウンドへと帰ってきた。4月17日、東京ドームで行われた北海道日本ハムファイターズ戦だった。
復帰の舞台が本拠地の千葉マリンではなく、敵地であったこと。そのタイミングが何よりも嬉しかった。
「セレモニー的な意味合いを持った復帰戦ではなく、ファームで一番調子がいいと評価をしてくれて、戦力として僕を起用してくれた。選手冥利に尽きる気持ちでいっぱいでした。何より勝ちたい一心でした」
ファイターズの先発は岩本勉。歳も一つ違いで90年代後半からお互いに自軍のエースかつライバルとしてしのぎを削ってきた。岩本も前年未勝利、02年は故障によりわずか4試合の登板に終わるなど、黒木と同時期に苦労を重ねていた。
黒木は2回裏に3点を失うも、持ち前の気迫溢れるピッチングで以降は無失点で切り抜ける。7回裏先頭に四球となったところで交代するも、6回を投げ3失点と試合をつくった。
対する岩本も同じ7回に2死から四球となったところで交代するまで1失点とこちらも好投を見せ、復帰初勝利は岩本に軍配が上がった。
736日ぶりの勝利となった岩本はお立ち台で涙を見せていた。実は岩本には以前当時の話を伺う機会があった。
「(久しぶりの勝利は)通過点だったので、泣くもんかと思っていました。ただ、インタビュアーさんに『ジョニーさんが〜』と聞かれた際にジョニーの姿が目に入ってきたんです。タオルを巻いて悔しそうにこっちを見ていて。それでグッと来て目頭が熱くなったんです」
そして黒木にその時の岩本の話を紹介するとこう答えた。
「各取材をバックヤードで受けていたのですが、その場で岩本さんの(ヒーローインタビュー)を聞いていました。同じ時期に戦ってライバル心もありましたし、岩本さんもリハビリや勝てない時期などを経てこの日お互いが投げ合った訳ですよね。何て言うのかなと思って聞いていたら僕の名前を出してくれたので、ジーンときました」
黒木の復帰には多くの関係者たちも涙した。マウンドに上がる際はファイターズの応援席からも大きな拍手が沸き起こるなど、真剣勝負の中にも感動が包んだ試合となった。