桜庭和志、石川雄規、佐竹雅昭、ミノワマン、石井慧など、多くの日本人と対戦してきた総合格闘家クイントン・”ランペイジ”・ジャクソン。PRIDE初参戦で、桜庭和志と戦い敗れはしたものの、高い評価を獲得。リングネームの「ランペイジ」のごとく、リング上で激しく暴れまわるファイトは、多くの日本人ファンの心に刻まれている。そのジャクソンが12月29日「BELLATOR JAPAN」で、“氷の皇帝”エメリヤーエンコ・ヒョードルと相対することとなった。場所は「さいたまスーパーアリーナ」、ジャクソンがPRIDE初参戦した思い出の地だ。そんな歴史的な一戦を前に、ヒョードルへの印象や、日本に対する熱い想いを聞くことができた。
――久しぶりに日本で試合をする、今の心境を教えてください。
ジャクソン:本当に日本に戻って来ることができて嬉しいよ。今回、さいたまスーパーアリーナで戦えるということで、ヒョードルとの試合をOKしたんだ。当初、BELLATOR側はヒョードルとの試合を日本以外で予定していたが、「日本は俺にとってフェイバリットな場所だ」と言ったら、BELLATOR側がその意見を受け入れてくれたんだ。
――そうだったのですね。日本のファンからは、ジャクソン選手は首から太い鎖をかけ、犬のような遠吠えをして入場するイメージがあります。
ジャクソン:29日も、そのイメージ通りの姿をお見せできるかもしれないな(笑)。自分の星座が双子座ということもあり、2つの顔を持っているんだ。
一つは普段の「クイントン・ジャクソン」という顔、そしてもう一つは「”ランペイジ”」が加わったファイターとしての顔さ。29日リングに上がる時は”ランペイジ”の顔を皆さんにお見せしたいと思っている。
――過去、ジャクソン選手は桜庭和志選手や佐竹雅昭選手など、数々の日本人ファイターと対戦してきました。日本人ファイターに対する印象を教えて下さい。
ジャクソン:日本人に関してはタフな選手が多い印象を受けた。ハートも強いし、何より最後の最後まで試合を諦めない強い精神を持っている。そして自分を支えてくれる人を代表して、試合に臨んでいるという気持ちが伝わるんだ。
――日本人選手に良い印象を持っていただきありがとうございます。ジャクソン選手の試合の中では、ヒカルド・アローナ選手にパワーボムでKO勝利した試合が強く印象に残っているのですが、ジャクソン選手ご自身はこれまで戦ってきて、一番印象に残っているのはどの試合でしょう?
ジャクソン:俺もアローナ戦での勝利は覚えているよ。単純に勝ったというだけでなく、試合当日が自分の26歳の誕生日だったし。15年も前のことだけど、あの日はちょっとしたストーリーがあるんだ。
パワーボムをした時、アローナに頭がぶつかり、頭に切り傷ができたんだ。それで病院に行き抗生物質を処方された。その時ドクターから「アルコールは飲んじゃダメだ」と言われたんだが、「いやいや、自分の誕生日だし」と思ってアルコールを飲んでしまった。そうしたらクラブで倒れてしまい、気がついたら鼻にストローを刺さっていた。かなり恥ずかしかったよ。
翌日取材を受けたけど、何を話したか記憶にないんだ。アローナに勝利しただけでなく、本当に恥ずかしい思い出もあり、いろんな意味で印象に残る試合になったね(笑)。
ジャクソン:ただあの試合、パワーボムで勝ってはいるけど、実は負ける一歩手前だったんだ。アローナはMMAでもキックが強い選手の1人。そのアローナからグラウンドの状態で3回キックを受けているんだ。もう一度映像で確認してもらうと分かるけど、これが本当に痛いキックだった(笑)。
まあ試合中はどんな技を受けてもポーカフェイスをしなければいけないわけだけど、26歳の誕生日ということもあって、負けたくなかった。アローナのキックが俺の顔に入り、顎がズレる感覚を味わったよ。するとアローナがレフリーに対して「ノックダウンしてる、ノックダウンしてる」とアピールをしたんだ。その時、自分が逆上してしまってパワーボムを決めた、というわけさ。
――アローナ選手へのパワーボムには、そんな裏話があるんですね。アローナ選手以外で印象に残っている選手はいますか?
ジャクソン:桜庭選手との試合は、俺がPRIDEで初めての試合だったから印象に残っているよ。あの試合は2週間前に告知されたが、元々はケンシャムロックとの試合が予定されていて、5週間ほど準備をしていたんだ。
そうしたら急に「桜庭と試合をしてほしい」と連絡があった。「桜庭」という選手も知らないし、そもそも「PRIDE」も聞いたことがない。分からないことだらけだったが、やることになった。
当初、階級は関係ないという話だったので減量しなくてもいいと思っていたら、試合の数日前に「体重を落とせ」と言われて。時間がなかったが、なんとか規定通り体重を落とすことに成功したよ。
当日、実際リングに立ってみると、さいたまスーパーアリーナは驚くほど大きな会場で、改めて本物のエンターテイメントショーであることを実感した。1R10分、2・3R5分のルールも自分には想定外で、準備が整ってなかった部分もあったが、自分の出来る範囲でサブミッションも切り抜けた。
しかし準備不足もあり、最終的には桜庭選手にチョークを極められてしまったけど、あれが自分のMMAのキャリアの中で、初めてサブミッション・関節技で敗れた試合だったんだ。
――そして今回再び「さいたまスーパーアリーナ」のリングに立つことになりました。対戦相手のエメリヤーエンコ・ヒョードル選手について、どういった印象をお持ちですか?
ジャクソン:ヒョードル選手は、見るからに「ロシア」の選手だという印象だ。非常にスキルのある、打撃も強い選手。加えてサンボのテクニックも持ち合わせている。だからグラウンド戦になったら、手強い選手だと思っている。
「血の匂いを感じた時、サメのように仕留めに来る」。そんな選手だと思う。 そして何よりも見た目が“ザ・ロシア”だ(笑)。変な意味ではなく、ロシア人は冷静でクールなイメージがある。
そして話す時の、あの独特なアクセントが好きなんだ。ヒョードル選手には自分と同じスピリットを感じる。エンターテイメント性の高い、観ていて楽しい試合をする選手だと思うよ。そしてファンのために面白い試合をする。なにより日本のファンが大好きだ。そんなところも自分と似ている点だね。
彼の過去の試合、多くの勝った試合と僅かな負けた試合を含め、本当にエキサイティングな試合をする選手だ。だから格闘家の中でも「レジェンド」と言われる選手になっているだろう。
もし29日の試合で自分が負けたらリマッチも申込もうかな(笑)。 とにかく今回の試合は、「日本のファンのため」にやる試合だと思っている。どちらが最終的に勝つか負けるかは分からないけれど、本当にファンのために戦うし、もし勝ったら家族に伝えたいな。
――最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
ジャクソン:「俺は戻ってきたぜ!」と大きな声で伝えてくれ(笑)。本当に日本のファンが大好きで、ここ最近試合が出来なくて寂しい思いをしていた。お世辞抜きに海外のファンと比べても日本のファンは素晴らしい。日本のファンは真実を語ることを好む。
一方US(アメリカ)のファンはエンターテイメント性を好む傾向にある。だから自分はUSのファンに好まれないかもしれない(笑)。ただ日本で試合をし、日本人や日本の文化に触れることによって自分は変わった。
過去の経験で言えば、カリフォルニアでトレーニングをしている時、台湾人の友達がいて、その友達の母のことを本当の母のように慕っていたんだ。そんなある日、日本で試合をして戻った時、彼女に「マナーが良くなったんじゃない?」と言われた。人に対してもリスペクトするし、礼儀正しくなったんだ。
その辺りが変わったのは、日本で試合をして、日本の文化に触れるようになったからだと思っている。 自分がたまたま育った街は黒人の街だったので、アジア人に触れることはなかったけれど、こうやって日本で試合をすることによって、日本のカルチャーを学び、今となっては誰に対してもお辞儀をするようになっていた。
自分の元々のルーツであるアフリカでもお辞儀をするので、本来自分はお辞儀をする人間なのかも…と考えたりもする。
ジャクソン:日本人はエナジーを大切にしていて非常に尊敬している。アメリカは黒人というだけで嫌われてしまうことがあるが、日本の場合、「外人だから嫌い」とか「黒人だから嫌い」と言われたことがない。
そういうところでも日本人らしさを感謝している。以前は夏に家族で日本に来て楽しんでいたから、また機会があれば日本にいつでも来たいと思っているよ。
取材・文/大楽聡詞
編集・写真/佐藤主祥