2014年仁川アジア大会にて。セパタクロー女子ダブルスで銅メダルを獲得。(左から)矢野千春選手、青木沙和選手、佐藤雪絵選手、そしてコーチの矢野順也氏(撮影/Katsuaki Iwamto)
■働きながら世界を獲る。日本選手の「異様な忍耐力」
――強豪国の多くは国が選手をサポートする「プロ」の状態だと聞きます。日本代表との違いはどこにあると感じますか。
矢野:東南アジアの国々にとって、アジア競技大会での金メダルは「国の威力(威信や名声)を、内外に広く高めること」に直結します。多額の予算が投じられ、選手は競技に集中する環境にある。
対して、日本の選手は全員が社会人として普通に働きながら練習しています。
――環境としては不利に思えます。
矢野:物理的な環境差は否めません。しかし、そこには言葉では片付けられない「覚悟の差」があります。仕事と競技を両立させ、限られた時間の中で結果を出すこと。それは彼らにとって、自らの選んだ生き方を肯定し、証明するための戦いでもあります。その高い志が、他国を凌駕する「異様なまでの忍耐力」の源泉となっているのです。
生活のすべてを注ぎ込み、細部まで徹底的に突き詰める戦術分析とテクノロジーの活用。この「日本独自の進化」こそが、国費で強化されたプロたちの背中を捉え、ついに追い抜いたのです。

――まさに、草の根から積み上げた力が爆発したのですね。
矢野:ええ。今の代表チームは30歳前後の選手が中心ですが、彼らは10年以上、この「4年に1度」の大会のためだけに人生を費やしてきました。アジア競技大会は、セパタクロー界にとってのオリンピック。
そこで代表選手に漏れれば、次は4年後、8年後になってしまう。落選した先輩たちの涙を見て、這い上がってきた彼らの執念は、言葉では言い表せないものがあります。
